これは「おりる」「くだる」「さがる」の意味の違いを探す問題です。
(それが分かれば、「おろす」「くだす」「さげる」など他動詞の意味の違いも自ずと分かる)
アプローチは5つあります。
1.品詞分解をもとに演繹的に考える。
2.複数の用例から共通性を見出す。帰納的に考える
3.このサイトにはこう書いてありました、といって引用する(えらい人はこう言っています、という論法)
4.わたしの感覚では「おりる」はこんなかんじ、「くだる」はこんなかんじ、のように、「ネイティブスピーカーの感覚」をもとに判断する。
5.辞書をあたる。
3,4は、ダメだと思います。5は王道ですが、「辞書をコピペして一丁あがり」だと3と同じになる。では1と2のどちらがよいか。今回は、動詞単独で品詞分解は不用なので1はナシ。2と5を組み合わせるかんじで試みます。
***「さがる」
本来は、「あるものの一端が固定されながら、全体としては中途半端な状態で下方に垂れる」の意味でした。
- 棒にぶら下がる
- 尻が垂れ下がる
- おさげ(← 女性の髪型の一種)
※ - 手提げ(さげ)カバンの「さげ」も語源は同じです。
その後、「高い位置から低い位置へ移動する」の意味になりました。
この「高い/低い」は、現実の高低よりは、むしろ、価値、数量、位(くらい)の高低を指すことが多い。これにより、「下がる」は「価値が低下する」の意味にもなりました。
- 値段が下がる。
- 温度が下がる
- 上座から下座へ下がる。
- 大儀であった、下がってよいぞ
- 頭が下がる
- 価値が下がる
上記はいずれも「おりる」「くだる」とは置き換えられません。
*** 「おりる」
高い位置から低い位置にいくことですが:
1). 到達点に焦点をおく点で「さがる」と異なります。
- 階段を下りる。
- 馬から下りる。
- 仕事を下りる
- 電車を下りる
- 落下傘で地上に降り立つ。
- シャッターが下りる(シャッターを下ろす)
- 霜がおりる(※ 地面という到達点に意識が向いている)
上記はいずれも「さがる」「くだる」で言い換えられません。
※ 例外:
- 「許可が下りる」
これは「(許可が)くだる」と言えなくもありません。
2). 目的・意図のある行為、という点で「おちる」と異なります。
- ビルから落ちて死ぬ *NG:ビルから降りて死ぬ
- 飛び降り(おり)自殺 *NG:飛び落ち自殺
*** 「くだる」
何かが上から下へ、勢いのままに、一気に移動する状態です。
- 川を下る(水流にまかせて、上から下へ)
- 腹が下る(同上)
- 山を下る(重力にまかせて、上から下へ)
古代では、天の神様がさっと地上にやってくる描写に使われました。
「瑞穂の国の天下り領(し)らしめける天皇(すめろぎ)の神のみことの」
その影響もあってか、「貴人が下々(しもじも)に何かをわたす」ことの描写にも使われるようになりました。
これが現代敬語の「**してくださる」の大元のイメージです。
「何かが下がる」の場合、その何かの価値・数量が減ります。
「何かが下る」の場合、その何かの価値・数量へ減りません。
これが違いです。
※ 例外
「○○の軍門に下る」 (○○に負けること)