***0: 【はじめに】
「抜く→抜ける→抜かす→抜かる」は、
「はぐ→はげる→はがす→はがれる」と同じ構造です。
しかし、「はぐ/はがす」「はげる/はがれる」のA/Bでは、AとBがだいたい同じ意味なのに対し
「抜く/抜かす」「抜ける/抜かる」は、たがいに意味がぜんぜん違います。
***1: 【まずは安易に回答してみます】
「抜く/抜ける」
「抜かす/抜かる」
がそれぞれ、「他動詞/自動詞」の一組です。
抜く、は、「長いものを引っ張り出す(あとに穴が残る)」が基本的な意味(※)。
抜ける、はそれが勝手に自然に生じる状態のことです(自動詞だから)
例文:「歯を抜く, 歯が抜ける」
※ 「引く」との違いは
「引いても」、はずれないことがある、しかし、
「抜く」なら、必ずはずれる、
ということです。
なので、「引いても抜けない」という言葉が成立します。
「抜かす」は「本来、入れるべきものを、入れ忘れる」の意味
例文:「1,2,3,5、6... 、あ、いけない、4、抜かしちゃった」
それの自動詞、「抜かる」は、「気づかず、うっかり失敗する」の意味。やや古めかしい語です。
例文:「抜かるなよ (be careful, don't failure!)」
***2: 【じっくり考えてみます】
「抜かす」という言葉は「抜く」の使役形、「抜かせる」に似ている。
そういう一組は他にもある。たとえば「どく → どかす」「さわぐ → さわがす」「笑う→笑かす(=笑わかす)」など。
使役形とは、「誰かにそれをさせること」、つまり、
どかす -> 「どく」を(誰かに)させる
出させる -> 「出す」を(誰かに)させる
やらせる -> 「やる」を(誰かに)させる
では、「抜かす」は、「抜く」を誰かにさせること?
でも、それがどうして、「本来入れるべきものを、入れ忘れる」という意味になるのか?
*** 【抜く→抜かす は、 はぐ → はがす と同じ構造】
他動詞「抜く」から「抜ける」という自動詞が生まれ、それがUターンして、もう一回、「抜かす」他動詞が生まれる。
これは、「はぐ → はげる → はがす」と同じ構造です。
むかしの日本語では自動詞、他動詞、どちらも「抜く」でした。ただし、他動詞なら四段活用、自動詞なら下一段活用。これがちがいです。
しかし、その後、鎌倉時代ぐらいから、動詞の連体形が終止形に使われるようになった。四段活用なら連体形は「抜く」、下一段活用なら「抜ける」。こうして「抜く」と「抜ける」が分かれました。
この「抜ける」から、他動詞「抜かす」が生まれる。なぜ、その必要があったのか?
**** なぜ、抜く が 追い越す(surpass) の意味?
「抜く」は、「長い物を引っ張り出す」のほかに「追い越す(surpass?)」の意味があります。
例文:
「昨年まで7位だったが、今年は5人抜いて2位になった」
これが私には長らく謎でした。長い物を引っ張る動作と、後から追いかけて最後は勝つことに、いったいなんの関連があるのかと。
「50メートル競走。ゴール間際で追い抜いて1位になった」
いや、別に走りながら、何かを引き抜いたりしないし。
とりあえず、今は次のように考えています。
<< 7位(自分), 6位, 5位、4位、3位、2位、1位 >>
この状態で、「6位, 5位、4位、3位、2位」の5人を『引き抜いたら』、
その時は5人が消えるから、自分は自動的に2位に上がる、そういうことかな、と。
<< 2位(自分), ○, ○、○、○、○、1位 >>
こう考えれば、「1,2,3,5,6。あ、いけない、4、抜かしちゃった(=数え忘れた)」の「抜かす」と同じ構造で解釈できますし。
「出し抜く」という言葉があります。
例文:「他人を出し抜いてでも、何が何でも勝つ」
この出し抜くは「少し卑怯なことをしてでも」という意味合いです。少なくとも正々堂々とはしていない。
じゃあ、「他人を出して抜く」っていったい何なのか?
以下、私の想像(妄想)ですが、
「大地に生えている植物を、引っこ抜く。すると植物は栄養を失い枯れてしまう。そんなふうに他人を活動基盤から引っこ抜いて弱めることを『出し抜く』というのかな」と。
(コメント欄につづく)