スペイン語をはじめとして、イタリア語、フランス語、ポルトガル語といったラテン語を起源とする「ロマンス語」は、名詞に必ず男女どちらかのがあり、名詞の性に合わせて形容詞や冠詞が変化することや、主語によって動詞の活用が必要なことから、英語と比べて難しい言語だと思われがちです。

しかしスペイン語は、英語や他のロマンス語に比べ、文法のルールがシンプルな上、多少順番を変えても問題なく通じるという特徴があります。
その上、発音日本語と同じ5つの母音から成るので、私たち日本人にとても馴染みやすい言葉だと言えるでしょう。

今回は、スペインの大学で修士号を取得した筆者が、スペイン語を学ぶ上で必須の基本ルールを解説します。ぜひこの機会に、スペイン語学習の第一歩を踏み出しましょう。

スペイン語の文法の基礎とは

スペイン語文法は、実は英語とも似た部分があります。
スペイン語も大きく分けると、S(主語)V(動詞)O(目的語)C(補語)4要素からなり、語順もほとんど同じ形になります。

ただし、スペイン語には特有のルールがあり、そのルールのせいで、ずいぶん違う言語のように見えるかもしれません。
しかし、そのスペイン語ならではのルールの法則さえ理解してしまえば、実際は意外と分かりやすい言語だということに気づくはずです。

ここでは、スペイン語の基本的なルールを紹介します。スペイン語ならではの9のルールを覚えて、初級スペイン語をマスターしましょう!

スペイン語の文法|9つのルール

ルール①:主語によって動詞が変わる

スペイン語はイタリア語やフランス語のような他のロマンス語と同じく、主語によって動詞が変化します。

例えば、「~である」と状態を表す動詞のEstar(英語のbe動詞に当たるものです)の直説法現在形の変化は、以下の通りになります。

    人称代名詞 estar
単数 1人称 「私」yo(ジョ/ヨ) estoy(エストイ)
2人称 「きみ」tú(トゥ) estas(エスタス)
3人称 「彼」él(エル)、「彼女」ella(エジャ) está(エスタ)

 

「あなた」usted(ウステー)
複数 1人称 「私たち」nosotros/nosotras(ノソトロス/ノソトラス) estamos(エスタモス)
2人称 「君たち」vosotros/vosotras(ボソトロス/ボソトラス) estáis(エスタイス)
3人称 「彼ら」ellos(エジョス)、「彼女ら」ellas(エジャス) están(エスタン)
「あなたたち」ustedes(ウステデス)

 

その他、基本的な動詞の直説法現在形の活用を紹介します。

スペイン語には、原形が「-ar」「-er」「-ir」で終わる3種類の規則変化動詞が存在します。

    「働く」trabajar(トラバハール) 「食べる」comer(コメール) 「生きる」vivir(ビビール)
単数 1人称 trabajo(トラバホ) como(コモ) vivo(ビボ)
2人称 trabajas(トラバハス) comes(コメス) vives(ビべス)
3人称 trabaja(トラバハ) come(コメ) vive(ビべ)
複数 1人称 trabajamos(トラバハモス) comemos(コメモス) vivimos(ビビモス)
2人称 trabajáis(トラバハイス) coméis(コメイス) vivís(ビビス)
3人称 trabajan(トラバハン) comen(コメン) viven(ビべン)

上記の例の通り、規則変化の動詞の活用は同じ形になるので、口に出して繰り返して発音して、全部覚えてしまいましょう。

規則変化の活用の語尾はそれぞれ以下の通りになります。

    -ar動詞 -er動詞 -ir動詞
単数 1人称 -o -o -o
2人称 -as -es -es
3人称 -a -e -e
複数 1人称 -amos -emos -imos
2人称 -áis -éis -ís
3人称 -an -en -en

その他、スペイン語には上記のルールに当てはまらない、不規則変化の動詞も存在します。
不規則変化の動詞の活用は、丸暗記をする必要がありますが、そんなに難しいものではないので、リズムよく何度も口に出して繰り返せば、いつの間にか覚えてしまいます。

ルール②:主語を省略できる

ルール①で紹介した通り、スペイン語動詞は主語によって変化します。
つまり、動詞の語尾変化を把握していれば、主語が無くても誰の事を言及しているのかはっきり理解することができます。
このため、通常スペイン語では主語を用いません

ただし「私が仕事をします」と言う時のように、誰がその行動をするのか強調したいときは、あえて主語を付けることがあります。

ルール③:母音にアクセント記号が付く場合がある

スペイン語単語は「子音+母音」もしくは「母音」を1つの音節と呼び、単語の最後の音節によって、発音のルールが決まります。

しかし、アクセント記号が付いた単語は、発音の基本ルールに縛られず、記号のついた音節にアクセントを置きます

例)「音楽」música(ムシカ)、「英語」inglés(イングレス)、「分析」análisis(アナリシス)

アクセント記号のあるなし意味が変わってしまう単語がありますので、読むときだけでなく、書くときも忘れないようにしましょう。

※アクセント記号のない単語の基本的な発音ルールは以下のとおり2パターンになります。

1)単語の最後が母音、またはnsで終わる言葉は、終わりから2番目の音節にアクセントを置きます。
例えば、「鐘」campana(カンパーナ)はcam-pa-naの3つの音節に分解することができ、ルールに従って終わりから2番目の音節paにアクセントが置かれます。
例)「リンゴ」manzana(マンサナ)、「試験」examen(エクサメン)、「関節炎」artrosis(アルトロシス)

2)n、s以外の子音で終わる言葉は、最後の音節にアクセントを置きます。
例えば、「あなた」usted(ウステー)はus-tedに別れ、最後のtedにアクセントがあります。
例)「女性」mujer(ムヘール)、「残酷な」cruel(クルエル)、「女優」actriz(アクトリス)

ルール④:名詞に性別がある

スペイン語名詞は全て文法上の性を持っていて、男性名詞女性名詞のどちらかに分類されます。

基本的に語尾が-oで終わる名詞は男性名詞-aで終わる名詞は女性名詞になりますが、例外もあるので注意しましょう。

ここでは、例外も含めた基本的な男性名詞と女性名詞を紹介します。

1)男性名詞

-o
「犬」perro(ペロ)、「本」libro(リブロ)、「ワイン」vino(ビノ)
※oで終わるのに女性名詞になるもの:「手」mano(マノ)、「写真」foto(フォト)等

-or
「愛」amor(アモール)、「色」color(コロール)、「味」sabor(サボール)

-aje
「旅行」viaje(ビアへ)、「人物」personaje(ペルソナへ)、「スーツ」traje(トラへ)

2)女性名詞

-a
「箱」caja(カハ)、「星」estrella(エストレジャ)、「オレンジ」naranja(ナランハ)
※aで終わるのに男性名詞になるもの:「惑星」planeta(プラネタ)、「問題」problema(プロブレマ)、「地図」mapa(マパ)等

-dad/-tad
「友情」amistad(アミスター)、「困難」dificultad(ディフィクルター)、「品質」calidad(カリダー)

-ción/ -sión/- tión/-xión
「歌」canción(カンシオン)、「許可」admisión(アドミシオン)、「手続き」gestión(ヘスティオン)、「熟考」reflexión(レフレクシオン)

上に挙げた 男性名詞と女性名詞の区分は一例になります。
これ以外にもたくさんの名詞がありますので、慣れるまでは1つ1つの単語を辞書で確認することをお勧めします。

ルール⑤:名詞によって冠詞が変わる

スペイン語の名詞のにはほぼ必ず定冠詞不定冠詞のどちらかの冠詞が付きます。

冠詞は続く名詞の性および複数単数によって形が変化します。

定冠詞

  単数 複数
男性形 el(エル) los(ロス)
女性形 la(ラ) las(ラス)

例)「犬」el perro(エル・ペロ)、「(複数の)犬」los perros(ロス・ペロス)、「箱」la caja(ラ・カハ)、「(複数の)箱」las cajas(ラス・カハス)

不定冠詞

  単数 複数
男性形 un(ウン) unos(ウノス)
女性形 una(ウナ) unas(ウナス)

例)「犬」un perro(ウン・ペロ)、「(複数の)犬」unos perros(ウノス・ペロス)、「箱」una caja(ウナ・カハ)、「(複数の)箱」unas cajas(ウナス・カハス)

基本的に、定冠詞は特定の物事やすでに文脈中に現れている名詞に対して使います。
一方、不定冠詞は具体的に特定せず、「物事の種類」を述べるときや、「1つの物事」と言う時に使います。

例えばel perroの場合、「(すでに話題に出たその)犬」と理解することができますが、un perroと言われた場合「(どの犬かは分からないが、ある)犬」もしくは「(ある)1匹の犬」という意味にとることができます。

ルール⑥:性別と名詞の数で形容詞が変わる「性数一致」

形容詞は普通、名詞の後ろに置かれます。
冠詞と同じく形容詞も、名詞の性および 複数・単数によって形が変化します。
形容詞の変化は名詞や冠詞の語尾変化と同じなので、難しいことは何もありません。

  単数 複数
男性形 -o -os
女性形 -a -as

例えば「小さい」を意味するpequeño(ペケーニョ)を使って名詞を修飾する場合、以下の通りの形になります。

「小さい犬」el perro pequeño(エル・ペロ・ペケーニョ)
「(複数の)小さい犬」los perros pequeños(ロス・ペロス・ペケーニョス)
「小さい箱」la caja pequeña(ラ・カハ・ペケーニャ)
「(複数の)」las cajas pequeñas(ラス・カハス・ペケーニャス)

ルール⑦:語順を変えても意味が通じやすい

スペイン語は、S(主語)V(動詞)O(目的語)C(補語)語順が厳密ではなく、4要素の順番を変えても通じるという特徴があります。

例えば、以下の文章は次の通りに置き換えが可能です。

【マリアは1冊の本を買う】
María copra un libro.(マリア・コンプラ・ウン・リブロ)
Un libro compra María.(ウン・リブロ・コンプラ・マリア)
Compra María un libro.(コンプラ・マリア・ウン・リブロ)
Compra un libro María.(コンプラ・ウン・リブロ・マリア)

ルール⑧:逆さの疑問符や感嘆符を文頭に付ける

アルファベットの文章が並んでいる時、一目でスペイン語だと分かる特徴的なシンボル¿?¡!ではないでしょうか。

¿?は疑問文の時、¡!は感嘆文、もしくは命令文の時に使われ、文を¿?や¡!で挟んで、どこからどこまでが疑問文・感嘆文・命令文であるかを分かりやすく示します。
発音するときは、¿?はしり上がりのイントネーションで、¡!は最初の単語にアクセントを置きましょう。

例)
【君はヒマですか?】
¿Tienes tiempo libre?(ティエネス・ティエンポ・リブレ)

【なんてすばらしい!】
¡Qué maravilla!(ケ・マラビージャ)

【扉を閉めて!】
¡Cierra la puerta!(シエラ・ラ・プエルタ)

ルール⑨:時制の表現が多く、複雑

スペイン語動詞には、「ルール①:主語によって動詞が変わる」で紹介した直説法現在形のほかに、直説法線過去、直説法点過去、直説法過去未来、接続法現在形、接続法過去形、未来形、命令形の8種類時制表現があります。

簡単に説明すると、直説法は実際の出来事を表し、線過去は完結した過去の出来事、線過去は継続した過去の出来事を表すときに使います。

直説法過去未来は、過去のある時点から見てまだ起こっていない出来事(過去の中の未来)を表します。

また、接続法は願望や感情、疑惑、価値判断など、頭の中で思い描いたことを伝えるときに使う動詞です。

それぞれの動詞の使い方には、もっと細かなルールがありますが、文法の基礎を学んでいるときは、「スペイン語の動詞には様々な時制の表現があるんだな」と何となく把握するだけで十分です。
まずは動詞の直説法現在形を使えるように頑張ってみましょう。

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まとめ

ここで紹介した9つのルールは、スペイン語の文法を学ぶ上で、一番の基本となるものです。
1度で全部覚えきれなくても、「こんなルールがあるんだな」と意識するだけで、学習の手助けになるはずですので、スペイン語を勉強するときは、ぜひ思い出してください。

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